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熊本家庭裁判所 昭和47年(少ハ)9号 決定 1972年9月28日

本人 N・O(昭二六・一一・二生)

主文

本件申請を棄却する。

理由

本件申請の要旨は、本人は、昭和四七年八月一八日一ヶ月間の収容継続決定を受けたものであるが、同年八月二三日陰茎の自傷行為(プラスチックの玉三個を釘を使用して陰茎に入れた)で謹慎一二日の懲戒処分を受けた、従つて、九月一日一級の上に進級予定が、一〇月一六日に変更に成つた、かかる事情から、現状では、一級上の指導を受けられないこと、又処遇の均衡も欠くことになるので、引続き指導を行ないたい。今後順調に経過したとすれば昭和四八年二月上旬出院予定である、収容継続の希望期間は満期日である昭和四八年九月三〇日の翌日から起算して四ヶ月間である、というにある。

よつて審按するのに、本人の供述、人吉農芸学院分類保護課長法務教官山田章、法務教官柴田芳文の供述、当裁判所調査官石山勝巳の調査報告その他一件記録を総合すると、本人は昭和四七年八月一八日に一ヶ月間の収容継続の決定を受け、同年九月三〇日満期に達すること、院内処遇階級が一級の下であること、昭和四七年六月末頃に第三学寮五室に於てプラスチック玉三個を釘を用いて自己の陰茎に挿入という反則行為があり、同年八月二三日謹慎一二日の懲戒処分を受けたこと、当該処分の結果一級の上に九月一日進級の予定が一〇月一六日に変更に成つたことを夫々認めることができる。

ところで、さきの収容継続決定は、本人の犯罪性の除去(矯正効果)の程度から勘案して一ヶ月の収容継続期間が定められたものであり、成程、本人が九月一日一級の上に成り、その後一ヶ月間の出院前教育の期間を見て居ることも確かである。しかし、進級の状態は、飽くまで、本人の矯正効果を判断する資料と成るに留まり、それが収容継続の可否決定の有力なる理由となるものではないのである。

而して本件にあつては前掲資料からすると、本人は収容継続決定後は全く反則も無く、概して自覚も深まり、本人なりに全力を出して院生活に順応しつつあることが認められ、現状以上の矯正効果を挙げることは期待できないようである。

前収容継続決定に当り、本人が昭和四七年二月二三日課長注意の処分を受けた以後三ヶ月の無事故表彰を同年六月九日に受け、更に六ヶ月間の無事故を目標に努力しつつあるとされ、それも期間を定めるに当り考慮されたことは明らかであり、かかる点からすると、前決定時に既に本人は反則行為を行なつて居たわけで、それを積極的に自分から申出ることをしなかつたのであるから、あるいは本人は自分に不利な点を隠して審判を受けたと推断されないものでもない。従つて此の限りに於ては、本人の反則行為を隠して居た責任を悪質として追及できるかも知れないが、かかる本人の責任も既に一ヶ月の収容継続期間中に為したる更生への努力をもつて消滅に至つたものと考えるのが相当であろう。

以上を総合して、本人に対しては、再収容継続の必要性は無いと認められるので、本人を満期の経過をもつて退院させるのが相当であつて、少年院法第一一条二項に該当しないから主文のとおり決定する。

(裁判官 末光直巳)

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